本文へ移動

託されたバトンの、その先へ
── 全員が主役になる会社をつくる

上野前社長が、数々の実績を積み上げた「最高の状態」で、リライフメンテホールディングス(以下、RMH)への参画と次世代への経営承継を決断した経緯は、以前のコラムで語られています。今回は、経営のバトンを受け継いだ新社長が、何を想い、どこへ向かうのかを伺いました。

(前作:「次の事業ステージへの入り口」で見出した──会社と社員を輝かせるための最適解)

対談者紹介

  • 株式会社ウヱノ
    代表取締役社長

    田中 隆宏 氏(以下、田中氏)

異業種から、建設の道へ ──「自分で掴んだものだけが、身になる」

── 田中社長は、建設業界とはまったく異なる業界から来られたと伺いました。

田中氏:

もともとは飲食業やホテルで、調理を担当していました。建設の仕事に就いたのは、ウヱノが初めてです。入社は平成8年、26歳のとき。ちょうど自分の店を出そうかと考えていた時期に、当時の上野会長から声をかけてもらいました。建設業界に強い関心があったわけではありません。ただ、人から必要とされるのは嬉しいものですし、自分の店を持つにはまだ早いとも思っていた。その二つが、決め手でした。

── 当時のウヱノは、どのような会社でしたか?

田中氏:

まだ小さな会社で、工事部門の担当が5人ほど、営業部門が2人ほど。私は営業として入りましたが、人手が足りず、工事にも出ていました。資格を取って現場に行き、また営業に戻り……と、とにかく何でもやる毎日でした。丁寧に教えてくれる人がいる環境ではなかったので、自分で本を読み、調べて、覚えていくしかなかった。ただ、今思えばそれが良かった。自分で掴んだものだけが身になります。恥をかくのが嫌で必死だった、というのが正直なところですが。

不安とともに受け取ったバトン

── 社長を引き継ぐと決まったとき、率直にどんな心境でしたか?

田中氏:

正直なところ、不安のほうが強かったです。私はどうしてもリスクから先に考えてしまう性分なので、なおさらでした。いずれは、という話は以前からあり、1年ほど前に「来年には」と具体的に聞いていました。頭で分かっていても実感が湧いてきたのは、気持ちを整理し少しずつ準備を進めた年明け2026年2月頃でした。

── そこから、どう動き出したのですか?

田中氏:

まずは現状の棚卸しです。前社長がやってきたことを一つひとつ引き継ぎながら、「これはやれる、これは手を打たないと難しい」と見極め、最終的に「やれる」と腹を決めました。そのうえで、自分の仕事を「減らせるもの」と「増えるもの」に分けて整理し、任せられるものは少しずつ手放していく。不安をそのままにせず、一つずつ具体的な準備に変えていきました。

── 一番大きかった不安は何でしたか?

田中氏:

受注です。社内の仕組みは前社長の時代にすでに固まっていたので、守っていける手応えはありました。ただ、受注だけは水物です。うちは公共工事が中心なので、予算の動きに左右される部分があり、努力だけではどうにもならない。だからこそ、受け身で待つのではなく、こちらから機会を広げていく姿勢が欠かせません。厳しい環境でも、今の基盤を守りながら、着実に受注を積み重ねていく。まずはそこをしっかりやり切りたいと思っています。

挑戦の前社長、堅実の新社長 ──受け継ぐもの、見極めるもの

── 前社長と長く歩んでこられました。その間に前社長から学んだこと、受け取ったものを、どう捉えていますか?

田中氏:

実は前社長とは、10代からの同級生です。長く同じ時間を重ねてきて、本当に多くを受け取ってきました。先を見通す力、それに合わせて準備し、計画を立てる力。挑戦心と、あきらめない粘り強さ。好きなことには全力投球で、とにかく勉強熱心な人でした。継続することの大切さ、規則を守り守らせることの意義、そして「今できないこと」もどうすればできるようになるかを考える姿勢。長年一緒に働き、ともに乗り越えてきた。その一つひとつが今の自分の軸になっていると思います。

── お二人は、性格はよく似ているのですか?

田中氏:

いや、まったく違います(笑)。難しい課題にぶつかったとき、私はまずどうリスクを避けるかを考える。前社長は、乗り越えるために何が必要かを先に考える人でした。私は堅実、前社長は新しいものをどんどん受け入れる。ただ、挑戦の前には必ず根拠となる情報を徹底して集めていました。性格は違いますが、違うからこそ二人でうまくバランスが取れていたのかもしれません。

── 受け継いだものの中で、これは守り続けたい、というものは?

田中氏:

前社長が築いた仕組みは、すべて守っていきます。書類の標準化や独自データベースの活用など、現場を支える業務のDXは建設業界の中でもかなり進んでいると思います。しかし、技術も手法も、時代とともに移り変わるもの。守るべきものは守りながら、変えるべきものはいち早く見極め、必要な手を惜しまず打つ。それが、これからの私の役割だと思っています。

暮らしを守る、という使命

── 長崎は、自然災害の影響を受けやすい地域です。改めて、ウヱノの事業の意義をどう捉えていますか?

田中氏:

長崎は、土砂災害や地すべりが本当に多い土地です。そして、私たちが得意とする分野が、そのまま社会からの要請に直結している。県や市町村と防災協定を結び、災害時には真っ先に動く。こうした協定を結ぶ会社は県内でも数社しかありません。斜面の緊急対策など、地域の生命線を守り安心をつくる仕事の先頭に立てる。ここに、トップリーダーの一社としての誇りがあります。

── 近年は、災害も激甚化しています。

田中氏:

大雨は、ある程度は事前に身構えられます。ただ、地震は突然やってくる。熊本で地震があったときは、長崎も要請を受けて点検に動きました。異常気象で、これまで予測しなかった災害も起こり得る時代です。大変ではありますが、そういうときこそ、住民の皆さんの暮らしの一端を担えているのだと感じます。

全員が、主役になる会社へ

── 社長として、まず第一に取り組んだことは何でしたか?

田中氏:

意識改革です。これまでは、前社長と私の二人が、上から会社を引っ張ることが多かった。これからは、社員一人ひとりが「自分は何をすべきか」を考え、実行できるようにしたい。誤解されたくないのですが、私は「自分がリーダーシップを発揮しなくても回る会社」にしたいと考えています。私が引っ張るのではなく、一人ひとりがリーダーシップを発揮できる組織にする。任せればリスクは増えますが、それを受け入れなければ会社は成長しません。みんなが自分で考えて動けば、「私が回している」のではなく「みんなで回している」状態になる。そこを目指しています。

── その先に、どんな組織を描いていますか?

田中氏:

トップが引っ張り上げなくても、一人ひとりが主役として動ける組織です。会社は、私がいなくなった後も続いていかなければなりません。だからこそ、今いる社員の中からその中心を担う人がどんどん育ってほしい。一人のリーダーに頼る会社じゃなくて、何人ものリーダーで支え合う会社。そうじゃないと、これから先は立ち行かないと思っています。

グループインがもたらした、一年の変化

── RMHへのグループインから、およそ1年。率直な感想を聞かせてください。

田中氏:

会社として、グループインは本当に良かったと思っています。地元の一中小企業だった頃と比べて、企業価値も、会社としてのイメージや信用も、確かに高まりました。前向きに受け止めている社員も多いと感じます。とくに実感しているのが、採用面でのグループの力です。自社だけでは十分にできなかった募集や発信を、ホールディングスのノウハウと後押しで進められる。ここは本当に大きいと感じています。

── 一方で、グループに入って、すり合わせが必要な場面もあったのでは?

田中氏:

そうですね。グループ標準のルールに合わせていく中では、うちのやり方とどう折り合いをつけるか、考える場面もあります。ただ、RMHは「すべてをそのまま当てはめる」のではなく、ウヱノの実情に歩み寄りながら、一緒に最適な形を探してくれています。一方的ではなく、対話しながら進められる。だから前向きにすり合わせていけています。

── これから、RMHに期待することは?

田中氏:

会社の魅力をもっと外に発信し、採用にも繋げていけたらと思っています。これまでウヱノは、自社の魅力を外に発信することにあまり取り組めていませんでした。長崎の暮らしを守っている会社がここにある——そのことを、身近なところから少しずつでも伝えて、ウヱノの魅力を知ってもらいたい。そうした発信を重ねるなかで、この仕事に共感してくれる仲間が少しずつ増えていけばと思っています。

野心を持ってほしい ──これから仲間になる人へ

── 最後に、ウヱノに関わるすべての人、そしてこれから仲間になる人へ、メッセージをお願いします。

田中氏:

社員には、野心を持ってほしい。これは面接でも、入社の挨拶でも、常に伝えている言葉です。何を大事にするか、価値観は人それぞれでいい。ただ、野心があると努力が生まれる。努力は結果になり、評価と報酬が上がって生活が潤う。そうすると学びの機会も増え、次の好循環につながっていきます。経営の仕事はその努力と働きにきちんと報いる原資を確保し、仕組みを整えること。それが責任だと思っています。社会貢献も大切でこれからも続けていきたい。しかし会社と社員に余裕がなければ、それもできません。まずは一人ひとりが野心を持ち、向上心を大切にする。そういう人が増えれば、会社は間違いなく強くなる。私はそう信じています。

──貴重なお話をありがとうございました。
取材当日、田中新社長は白いTシャツ姿で現れ、「Tシャツでもいいですか?」と、少しはにかみながら席に着きました。その飾らない佇まいは、この日の対話そのものでした。
「全員が主役になる会社をつくる」。一人のカリスマに頼るのではなく、一人ひとりがリーダーシップを発揮する組織へ。
受け取ったバトンを手に、田中新社長は確かにその先へと走り出しています。