
関西送電インフラの最前線から
──信頼で社会を灯す陵南の挑戦
2025年4月にリライフメンテホールディングスグループに参画した株式会社陵南をご紹介いたします。同社は1952年の創業以来、主に関西電力の元請け業者として送電・変電設備等のメンテナンスを中心に事業を行い、過去には大阪万博や黒部ダム関連工事などを手がけるなど、歴史のある会社であるとともに、10年以上無事故の現場運営を続けております。グループ入りしたことによる変化や今後の事業発展に対する思いを、代表取締役である明石重徳氏に語っていただきました。
対談者紹介
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株式会社陵南
代表取締役明石 重徳 氏(以下、明石氏)
Summary
関西の送電を支えてきた陵南の系譜
──まず、株式会社陵南の歩みについてお聞かせください。
明石氏:
創業は1952年(昭和27年)で、初代社長の高橋勇が「高橋電気工業所」として事業を始め、1969年に法人化して「陵南電気工業株式会社」となり、送電線工事を中心に事業を拡大していきました。
1970年には関西電力の指名業者に選定され、元請け会社として入札に参加できるようになりました。ちょうど大阪万博の年で、黒部ダムから大阪へ電気を送る大黒幹線の建設にも携わるなど、日本の高度経済成長を支える大規模プロジェクトに関わりました。
──では、明石社長ご自身の歩みについても教えてください。
明石氏:
この業界に入ったのは18歳のときです。叔父が陵南に在籍しており、当時ぶらぶらしていた私に「働いてみないか」と声をかけてくれたのがきっかけでした。初日から出張で現場に連れて行かれ、作業服の着方もわからないまま仕事を始めました。
当時は「仕事は見て覚えろ」という時代で、若手は人一倍早く現場に行き、人一倍重い物を持つのが当たり前でした。厳しい環境でしたが、現場を叩き込まれた経験は今につながっています。24歳で現場を任され、27歳で班長を務めるようになり、安全管理や資格取得の重要性も学びました。
──一度退職されて独立されたと伺いました。
明石氏:
そうですね。1996年頃、独立して有限会社を設立しました。当時協力会社だった同業の仲間と全国を回り、送電線工事に携わりました。ちょうどバブル崩壊の影響もあって、改めて一から挑戦するような感覚でした。
──そこから復帰された経緯は?
明石氏:
関西電力の工事には「認定級」という資格保持者が必要なんですが、社内でその資格を持つ人が不足してしまい、大きな案件を請けられない状況になっていました。そこで「戻ってきてほしい」と要請を受けたんです。独立するときに社長から「必ず帰ってきてくれ」と声をかけてもらっていましたので、その約束を果たす形で復帰しました。
復帰後は次長として現場をまとめ、やがて取締役部長に就任。その後、陵南がリライフメンテホールディングスグループに入るタイミングで社長に就任することとなりました。
──まさに現場から経営までを一貫して歩まれてきたわけですね。
明石氏:
そうですね。18歳で現場に飛び込み、独立や復帰も経験しました。その過程で学んだ現場の知識や人とのつながりが、今の経営判断や人材育成の考え方に生かされていると思います。
「社会に信頼される企業」を支える理念と現場文化
──ありがとうございます。では次に、企業理念に掲げられている「社会に信頼される企業」とは、どのような意味を持つのでしょうか。
明石氏:
私たちが掲げる「社会に信頼される企業」という理念は、具体的には「安全」「法令遵守」「技術向上」の三つを柱としています。送電工事は人の命と電気の安定供給を守る仕事であり、一歩間違えば重大事故につながり、地域社会に大きな影響を与えます。だからこそ第一に安全を徹底し、法令を守り、常に技術を高めていくことが、社会に信頼される企業であるために欠かせません。
また、社会に信頼されるとは、発注者だけでなく、現場で共に働く協力会社さん、社員、その家族からも信頼されるということです。無理をせず安全を優先し、その姿勢を積み重ねていくことが、社会全体からの信頼につながるのだと思います。
──その理念を形づくった背景には、明石社長の現場経験があるのですね。
明石氏:
そうですね。私が若い頃は「仕事は見て覚えろ、盗んで覚えろ」という時代でした。先輩から「お前に教える時間はない」と突き放され、現場で失敗を繰り返しながら覚えていくしかありませんでした。間違えればヘルメット越しに叩かれることもあり、とにかく厳しい環境でした。ただ、その分「必死に学び取らねば」という姿勢が鍛えられたのも事実です。
今は時代が変わり、同じやり方は通用しません。怒鳴られて育つのではなく、きちんと説明し、教えていく文化に変わりました。若手に教える中で「なるほど、そういう視点もあるのか」と逆に気づかされることもあります。教えることで自分自身が学ぶ。そういう循環が今は必要だと思っています。
──逆に学びもあるのですね。では、そういった現場において大事にしている考え方はありますか。
明石氏:
よく「段取り八分、仕事二分」と言います。準備が八割できていれば、残り二割は楽に進みます。逆に準備不足だと必ず無理が生じ、事故やトラブルにつながります。鉄塔工事は現場ごとに条件が異なり、必要な工具も手順も変わります。だから「この現場ならこの道具が要る」「この準備をしておかないといけない」と先を読む力が不可欠です。つまり、現場に入る前に、必要な道具や準備を頭の中で想定できるかどうかが、一人前かどうかの分かれ目になります。若手には、その力を育てることを常に意識しています。
──準備がしっかりできているかは重要な境目ですね。現場には御社の社員だけでなく協力会社の方々も一緒に入られると思います。協力会社さんとの関係づくりについてはどのようにお考えですか。
明石氏:
うちの現場では「協力会社さんとの絆」を特に大事にしています。お金のことだけに走ってしまうと、どうしても関係がギクシャクしてしまう。
同じ地域で会社は違ってもずっと同じ班が一緒に動いています。鉄塔の基礎部分を担当する基礎班と、電線を張る電工班は役割が違いますが、同じ現場の仲間です。たとえば基礎工事が遅れ気味なら「お前のところは休んでおけ、今日はうちがやるから」という持ちつ持たれつの関係性が重要です。基礎班が穴を掘って作業して、きれいに整える前に電工班が入り、その作業が終わったらまた基礎班が最終的な整地を行う。そうやって一体となって進めていくんです。なので、しっかり付き合いができていないと「お前の仕事、俺の仕事」と線引きしてしまい、仕事が進みません。そういう意味でも信頼関係が大切です。
協力会社さんと長年かけて築いてきた信頼関係こそが、陵南の現場文化の基盤だと思っています。これは単に効率のためではなく、お互いに命を預け合う仕事だからこそ生まれる絆です。この「協力会社さんとの絆」があるから、うちは10年以上ゼロ災害を続けることができているのだと考えています。
ゼロ災害を貫く安全管理の徹底
──ありがとうございます。“段取り八分”や“協力会社さんとの絆”の話は、まさに安全のためですね。改めて、柱となる「安全第一」への考えをお聞かせください。
明石氏:
はい。送電工事は常に危険と隣り合わせの仕事です。鉄塔は100メートルを超える高さになることもありますし、扱うのは高電圧の設備です。さらに現場は山間や河川沿いなど自然環境の中が多く、強風や落雷、豪雨など外的要因の影響も受けやすい。だからこそ私たちは「ゼロ災害」を掲げています。特に「第三者災害」、つまり地域の方や通行人に被害が及ぶことは絶対に起こしてはならない。その意識を現場に入る全員が共有しています。
──やはり安全は一人ひとりの意識が重要になりますね。具体的に教育や研修はどのようにされていますか。
明石氏:
安全教育は現場に入る前の必須項目です。新入社員には工具の扱い方から始め、鉄塔に登って模擬作業を行いながら感覚をつかんでもらいます。経験年数に応じた定期研修も続けており、10年選手であっても「もう慣れているから大丈夫」と油断させないように繰り返し教育しています。
また、施工計画書の確認の場でも意識を揃えることを大切にしています。「これくらいなら大丈夫だろう」と思う人と、「これは危ない」と思う人では、安全認識のレベルが違う。全員が同じレベルの安全意識を持たないといけません。送電工事はグループで動くので、一人でも一匹狼的な行動をする人がいると事故の原因になる。だから個人レベルの意識をフラットにし、高めていく。先輩に対しても「それはダメです」と言える関係性を作ることが必要なんです。
──安全に作業を行うために、実際の現場ではどのように意思疎通を図っているのでしょうか。
明石氏:
鉄塔の上にいる作業員からは地上の動きが見えませんし、地上からは100メートル上の細かい作業は分かりません。だからこそ無線や手合図が絶対に欠かせません。報告・連絡・相談、いわゆる報連相を徹底し、「必ず伝える、必ず確認する」を合言葉にしています。
ちょっとした思い込みや確認不足が、そのまま重大事故につながるからです。
──安全を優先する一方で、工期やコストの面で難しさはありませんか。
明石氏:
そこが一番悩ましい部分です。しかし私たちは「多少のロスがあっても安全を優先する」という文化を徹底しています。たとえば予定通りに作業が進まなくても、風が強ければ作業を中止する。資材の搬入が遅れれば、無理をせず翌日に回す。短期的には損に見えるかもしれませんが、事故を起こしてしまえば人の命も会社の信用も失います。結局は安全第一が最も効率的なんです。
──そうした姿勢が、御社が10年以上無事故を続けておられる背景なのですね。
明石氏:
はい。無事故というと特別なことをやっているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。安全というのは特別なことをやるんじゃなくて、基本を徹底することなんです。ヘルメットのあごひもを確実に締める、高所では安全帯を二重にかける、少しでも異常があれば遠慮なく作業を止めて相談する。そうした当たり前のことを全員がやり続ける。その積み重ねこそが、10年以上の無事故につながっているのです。
老朽化する送電設備と人材不足への挑戦
──では、次に御社が携わっているインフラについてお聞きします。電力インフラの維持管理は、今後ますます社会的な重要性を増していくと思います。現状の課題をどのようにご覧になっていますか。
明石氏:
一番大きな課題はインフラの老朽化です。送電線はおよそ50年で取り替えが必要と言われています。高度経済成長期に建設された鉄塔や送電線が、一斉に寿命を迎えつつあるのです。実際、戦時中に被弾した鉄塔が今も現役で使われているケースがあります。補修を重ねてきた歴史の証ではありますが、いつまでも使えるわけではありません。これから先、取り替え工事の需要はますます増えていくでしょう。
また、地域によって劣化の進み方が違うのも特徴です。海沿いの鉄塔は塩害で錆びやすく、山間部では強風や積雪によって構造に負担がかかります。寒冷地では凍結や雪崩による影響もありますし、都市部では交通量の増加や周辺環境の変化がリスクになる。現場によって状態がまったく違うため、点検と計画的な取り替えが欠かせません。
──需要が高まる一方で、人材不足も大きな課題になっているのではないでしょうか。
明石氏:
はい。業界全体で人手不足は深刻です。送電工事は高所作業や危険を伴う現場が多いので、経験豊富な技術者が不可欠ですが、その担い手が減ってきているのが現実です。若い世代にとっては決して楽な仕事ではありませんが、社会インフラを守る使命感や、自分の携わった仕事が地域の暮らしを支えているというやりがいを、どう伝えていくかが重要だと感じています。
──そうした課題に対して、今後どのような取り組みを進めていきたいと考えておられますか。
明石氏:
まずは人材を確保し、安心して働ける環境を整えることです。安全を最優先にし、無事故を積み重ねることで、若手が安心して働ける職場づくりを進めたい。また、資格取得の支援やキャリア形成の仕組みを充実させることで、将来を描きやすい環境を提供していきたいと思います。
さらに、協力会社さんとのネットワークを広げ、業界全体で人材と技術を支え合う体制をつくることも重要です。老朽化と人材不足という二つの大きな課題に立ち向かうには、一社だけでなく業界全体で力を合わせる必要があります。
グループ参画がもたらした変化と広がる可能性
──株式会社陵南は現在、リライフメンテホールディングスの一員として事業を展開されています。グループに参画された当初のお気持ちをお聞かせください。
明石氏:
最初にお話をいただいたときは、不安がなかったわけではありません。「今までのやり方が大きく変わってしまうのではないか」「陵南の伝統が失われるのではないか」「本当に支援していただけるのか」「『支援しますよ』というのが単なるメッセージで終わってしまうのではないか」と思っていました。
ですが4月のグループ入り以降、陵南の今まで積み上げてきたものや事業に対する考え方を尊重していただいた上で、当社の課題であった事業進捗の見える化、業績数値のタイムリーな把握、人材採用支援、ホームページの改修に具体的かつ迅速に着手していただきました。実際に人材の採用という結果につながっており、言葉だけでなく、結果が出たことで、「事業を発展させていけるのではないか」という期待に変わっていきました。
──今後の事業を発展させていく上で、重要な分野は何でしょうか?
明石氏:
グループ入りして最も大きな可能性を秘めている分野としては、施工能力の拡大、強化があると考えています。先ほども述べたように現場の人手不足は深刻であり、リライフメンテホールディングスとはその大きな課題を共有し、施工能力の拡大、強化の取り組みに向けた議論を行いました。その結果、ホールディングスによる新たな送電工事会社の探索および面談の実施、グループ会社であるinfratからの基礎工事業者の紹介、さらにこちらもグループ会社である平世美装における外国人職人採用の横展開などなど、今まで自社では到底できなかった取り組みがリライフメンテホールディングスグループ入りすることにより開始できました。すべてが短期間で結果につながってはいませんが、当社の将来の成長に対して大きな手応えを感じています。
──従業員の方たちの受け止め方はいかがですか。
明石氏:
少しずつではありますが、従業員の意識が変わってきていると感じます。会社を良くするために、まだまだやることがあるのだと実感しているのではないでしょうか。リライフメンテホールディングスの他のメンバーも「グループの一員ですよ」という接し方を現場の社員にしてくれており、それが意識の変化につながっていると思います。
私自身も、子会社というよりはグループの一員として、一段上を目指したい、目指せるのではないかと感じ始めています。また、協力会社との関係強化にも積極的に取り組んでもらっており、協力会社の社長もリライフメンテホールディングスの目指すビジョンを理解してくださっている。その結果、より一層の関係強化が図れると感じています。
──グループ参画でかなりメリットがあったのですね。他にも何かグループに期待することなどはありますか。
明石氏:
現在の取り組み以外にも、安全対策の強化やコンプライアンス対応については、グループの支援をお願いしたいと考えています。変化が起き始めている今の勢いを加速させるために、引き続きリライフメンテホールディングスの方々と連携を密にしていきたいですね。
今では右腕・左腕を一度に得たような感覚です。経営の相談をできる仲間が増え、支えてくれる存在がいることは非常に心強いです。現場だけでなく経営面でも、一人ではできないことを助けてもらえる環境ができました。
「日本インフラ再生計画」という大きな目標を掲げているグループに加わった以上、自分たちもその一翼を担いたいと思っています。老朽化したインフラを守り、次の世代に安全な電力を引き継ぐ。その使命感を胸に、グループの仲間と力を合わせて取り組んでいきたいです。